手をひらひらと振り続ける。体を前後に揺らす。同じ動きを、何度も繰り返す姿を見て、「癖なのかな」「成長の途中だから仕方ないのかもしれない」そう思いながらも、心のどこかで引っかかりを感じていませんか。
こうしたこうした同じ動きを繰り返す反復行動は、乳幼児期から学童期にかけての発達過程でもよく見られますが、頻度や強さ、生活への影響によっては「常同運動症」と呼ばれる状態が関係している場合もあります。
今回は、常同運動症について、「どんな特徴があるのか」「どう受け止め、関わっていけば良いのか」を分かりやすく解説しますので、ぜひご一読ください。
常同運動症とは?
常同運動症(Stereotyped / Stereotypic Movement Disorder)という言葉は、一般的にはあまり馴染みがないかもしれません。
医学的には神経発達症の分類に含まれますが、これは特性を整理するための考え方であり、すべてが診断や治療を必要とするわけではありません。
成長の過程で自然に目立たなくなることもあるため、生活への影響の有無を見ながら関わっていくことが大切とされています。
どのような動きが見られるのか
常同運動症で見られる動きには、いくつか典型的なパターンがあります。
たとえば、手をひらひらと振る、手をもみ続ける、体を前後に揺らす、頭を打ちつける、唇や指を噛むといった行為です。
これらは退屈を感じている時、不安が高まった時、興奮している時、あるいは何かに強く集中している時など、状況によって強まったり弱まったりする傾向があります。
なぜ起こるのか
常同運動症の理由については、まだはっきりとは分かっていませんが、さまざまな見方があります。
不安や緊張を和らげたり、感覚の強さを自分なりに調整したり、興奮した気持ちを落ち着かせたりするために、また注意や集中を保つための手段として現れていることがあります。
また、神経学的な背景が仮説として指摘されていますが、現時点では単一の原因が特定されているわけではありません。
いつから始まり、どれくらい続くのか
発症時期としては、2〜3歳頃などの乳幼児期に始まるケースが多いとされています。
軽いものであれば成長とともに自然に目立たなくなることもありますが、症状が持続し、生活への影響が大きい場合には成人期まで続くこともあります。
年齢別に見る常同運動症の現れ方
常同運動症は、どの年齢でも同じように現れるわけではありません。
発達段階や置かれている環境によって、動きの種類や目立ち方は変化します。
ここでは、年齢ごとの特徴を整理していきます。
乳幼児期
この時期は、手をひらひらさせる、体を揺らすといった動きが、発達過程の中でも比較的よく見られます。
そのため、「個性」「一時的な癖」として受け止められることも少なくありません。
・特定の動きが長時間続く
・興奮や不安が高まると必ず同じ動きが出る
・止めようとすると強い抵抗や不安が見られる
このような特徴がある場合、自己調整の手段として常同運動が使われている可能性があります。
この時期は無理に止めることよりも、安心できる環境づくりと観察が大切になります。
就学前
集団生活が始まることで、常同運動が目立ちやすくなる時期です。
園生活の中で
・待ち時間
・指示が多い場面
・感覚刺激が強い環境
このような状態が続くと、体揺れや手の動きが増えることがあります。
この段階では、周囲から「落ち着きがない」「注意してもやめられない」と誤解されやすく、本人が否定的な関わりを受けることで、さらに不安が高まることもあります。
家庭と園が連携し、「なぜ出ているのか」という視点で捉えることが重要になります。
小学生以降
学習や対人関係の要求が高まるにつれて、常同運動が本人の困り感と結びつきやすくなる時期です。
すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、環境や周囲の反応によって困り感が生じることがあります。
・周囲の視線を気にして我慢しようとする
・我慢することで疲労やストレスが強まる
・別の形の行動や不調として現れる
このような二次的な影響が見られることもあります。
この段階では、本人がある程度「自分の行動」に気づいていることも多く、環境調整や行動療法などの支援が効果を発揮しやすくなります。
家庭でできる基本的な関わり方
常同運動症が疑われる行動を目にすると、「止めたほうがいいのではないか」「このままで大丈夫なのだろうか」と不安になるのは自然なことです。
しかし、家庭での関わり方として最も大切なのは、行動そのものをすぐに矯正しようとしすぎないことです。
行動が見られていても、本人が落ち着いて過ごせており、日常生活や学びに大きな支障がない場合には、必ずしも「困りごと」として対応する必要はありません。
多くの場合、常同運動は不安や緊張、感覚の過不足、環境とのミスマッチに対するその子なりの自己調整の手段として現れています。
そのため、叱ったり無理にやめさせたりすると、一時的に行動が止まったように見えても、内側の不安が高まり、別の形で行動が強まることがあります。

まずは「観察する」ことから始める
家庭でできる第一歩は、行動を評価することではなく、落ち着いて観察することです。
・どんな場面で起きやすいか
・どのくらいの頻度・時間続くのか
・疲れている時、不安な時、退屈な時などに変化があるか
こうした視点で見ていくと、「困った癖」ではなく、その子が何かを伝えようとしているサインとして捉えやすくなります。
無理に止めるのではなく、環境を整える
行動を直接止めようとするよりも、環境側を調整することが重要です。
・刺激が強すぎないか(音・光・人の多さなど)
・長時間の集中や我慢を求めすぎていないか
・安心して休める時間や場所が確保されているか
環境が整うことで、常同運動が自然と減ったり、落ち着いたりするケースも少なくありません。
代替行動を用いた対応
多くの常同運動は、不安や緊張を和らげたり、感覚のバランスを取ったりするための自己調整の手段として現れています。
そのため、その役割を無視して無理に抑え込むと、かえって不安が高まり、別の行動として強く現れることがあります。
そこで用いられるのが、「代替行動」という考え方です。
危険がないかどうかを冷静に見極める
家庭で特に意識したいのは、安全面の確認です。
・自傷につながる可能性がないか
・周囲の人や物を傷つけるリスクはないか
安全に大きな問題がない場合は、過度に反応しすぎないことが、結果的に行動の安定につながることもあります。
一方で、噛み行為などが見られる場合には、早めに専門家へ相談し、環境調整や支援につなげることが大切です。
家庭だけで抱え込まない
家庭でできる関わりはとても大切ですが、すべてを家庭だけで解決しようとする必要はありません。
行動が強まってきた、生活への影響が広がってきたと感じた場合には、医療機関や専門職に早めに相談することも大切な選択の一つです。
家庭での理解と安心を土台にしながら、必要に応じて専門的な支援につなげていくことが、長期的に見てお子さんにとって、最も負担の少ない関わり方といえるでしょう。

診察において重要な点
医療の現場では、常同運動症が他の症状と似て見える場合もあるため、慎重に確認しながら見立てていくことが大切とされています。
例えば自閉スペクトラム症(ASD)に見られる自己刺激行動(スティミング)は常同運動症と非常によく似た症状を示します。
また、チック障害との区別も重要です。チックは短く素早い動きが多く、本人が「違和感」を感じて一時的に抑制できることがある点が特徴です。一方、常同運動はより律動的で持続的であり、抑制が難しいことが多いとされています。
さらに、薬剤や神経学的疾患に由来する運動でないかどうかも慎重に見極める必要があります。
鑑別が重要なのは、診断名そのものを決めることが目的ではなく、
その後の関わり方や支援の方向性が大きく変わるためです。
一見すると似たように見える反復的な動きでも、背景にある要因や本人の感じている負担は異なります。
その違いを正しく捉えられないと、本来必要のない対応を続けてしまったり、逆に必要な支援が届かないままになってしまう可能性があります。
支援、対応の考え方
行動療法を中心とした支援
支援の中心に用いられるのが、行動療法です。
ハビットリバーサル(HRT)、差次強化(DRO)などに基づいた一人ひとりに合わせた関わりは、多くの研究や実践の中で有用とされています。
特に、自閉スペクトラム症を伴わない一次性の複雑運動常同に対しては、行動の機能分析に基づいた介入が効果を上げやすいとされています。
また、症状の緩和を目的として、補助的に抗精神病薬(リスペリドン、アリピプラゾールなど)が検討されることがあります。
ハビットリバーサル
ハビットリバーサルは、無意識的・反復的に出現する行動を、本人にとって負担が少なく、周囲から目立ちにくい行動に置き換えることを目的とした行動療法です。
もともとはチック障害の治療として発展しましたが、常同運動症を含む反復運動にも応用されています。
この方法は気づき、拮抗反応、動機付け手続き、一般化という4種類の訓練が組み合わさったもので、自分の行動をある程度自覚し、調整できる力がある場合に効果を発揮しやすいとされています。
そのため、ASDを伴わないケースや、年齢が上がった児童・成人で特に有効とされることがあります。
差次強化(DRO)
問題行動を直接止めさせるのではなく、「問題行動が起きていない状態」や「代替となる望ましい行動」を強く認識させる方法です。
例えば「5分間爪を噛む行動がなければ褒める」「授業中に体揺れがなければ追加で休憩時間を与える」などの行為で認識の強化をします。
この方法には年齢や認知水準を問わず用いることができるという利点がありますが、認識を強化するタイミングを誤ってしまうと効果が不安定になるほか、「なぜその行動が出ているのか」というところまでしっかり分析できないと、時間の経過で症状が元に戻ってしまう可能性があります。
これら2つの行動療法は常同運動症に有意な効果を示すとされていますが、方法を誤ってしまったり適切でない方法を取ってしまうと期待通りの効果が見込めないかもしれません。
トレーニングの方法について不明な点や心配なことがあれば、迷わず小児科や精神科などの専門医や言語聴覚士のようなプロフェッショナルに相談されることをお勧めします。
お子さんが常同運動症かもしれないと思ったときに大切なこと
もしお子さんに常同運動のような行動が見られた場合、まず大切なのは、「すぐに治さなければならない問題」として捉えすぎないことです。
行動の有無そのものではなく、その行動が本人や周囲にとって「困りごと」になっているかどうかという視点で考えることが重要になります。
多くの常同運動は、不安や緊張、感覚の過不足、環境とのズレに対して、その子なりに心や体のバランスを取ろうとする自己調整の手段として現れます。
そのため、叱ったり無理にやめさせたりすると、行動はいったん落ち着いたように見えても、内側の不安が高まり、
別の形で困りごとが強くなることもあります。大切なのは、「やめさせること」よりも、その行動がどのような役割を果たしているのかという視点で捉えることです。
一方で、行動が日常生活や学習、集団生活に影響している場合には、環境を整えたり、専門的な視点から支援を受けたりすることが重要になります。
その子の特性に合った過ごし方や学びの環境を考えることも、支援の大切な一部といえるでしょう。
ステラBASEでは、お子さん一人ひとりの感じ方やペース、得意・苦手を大切にしながら、
表に現れる行動だけで判断するのではなく、背景にある気持ちや環境との関係に目を向けた関わりを行っています。
安心して過ごせる環境や、自分らしくいられる居場所があることは、
子供が本来持っている力を発揮するための大切な土台になります。「今の環境が少し合いにくいかもしれない」と感じたとき、
その子に合った学び方や過ごし方を考える選択肢の一つとして、こうした場があることを知っていただけたら幸いです。
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