
「勉強さえできるようになれば」
「人との関わりに慣れれば、学校にも戻れるはず」
そう願う大人の気持ちは、きっと多くのご家庭や支援の場に共通しているものだと思います。
けれど実際に、心に生きづらさを抱えた子供たちが「何かをできるようになる」ためには、その前提として「安心できる環境」が不可欠です。
これは、ただの心情的な話ではなく、心理学・教育学・発達支援の分野でも多く語られている重要な要素です。
たとえば、トラウマ・インフォームド・ケア(Trauma-Informed Care)という支援概念では、過去の経験に基づく防衛的な行動を「問題行動」とは捉えず、「傷ついた心の反応」として尊重し、その子の安心・信頼を再構築することを最優先にします。
また、愛着理論における「安全基地(Secure Base)」という考え方でも、子供が自由に探索したり成長したりするためには、まず「いつでも戻れる安心の場」があることが必要とされています。
子供が自分らしく回復していくために、どんな場所が必要なのか――
今回は、まずその最初の一歩となる「安心できる環境」について考えていきたいと思います。
安心できる環境とはどういうことか
生きづらさを抱えた子供たちにとって、まず何よりも必要なのは、「安心できる環境」です。
それは、単に「安全」な空間という意味だけではなく、心が緊張しなくてもよい場所、自分を守らなくても存在していられる場所を指します。
たとえば発達特性のあるお子さんは、感覚過敏や聴覚の鋭敏さ、社会的なやりとりの困難さなどから、学校や家庭、地域の中で常に“気を張って”過ごしています。
周囲のペースについていこうと努力しすぎて疲弊したり、失敗体験を繰り返す中で自己評価が著しく低下したりすることも少なくありません。
そうした状態では、「頑張ること」や「学ぶこと」以前に、まず安心して“存在できる”ことが何より重要になります。
つまり、「何もしなくても、ただここにいていい」と思える環境が、その子の回復の土台になるのです。
フリースクールという選択肢
フリースクールでは、子供たちが安心を感じられるように、以下のような配慮を大切にしています:
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比べられない(誰かと成績や行動を競わせない)
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強制されない(話さなくても、座っていなくても、とがめられない)
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自己決定が尊重される(「どうしたい?」を日々たずねる)
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一人でいたい気持ちも受け入れられる(関わりすぎず、放っておきすぎず)
また、「失敗しても受け止めてもらえる」「間違っても大丈夫」という体験は、心理的安全性(Psychological Safety)を育てるうえで欠かせません。
子供たちは、大人のまなざしや語りかけから、「ここは敵ではない」「自分は守られている」と感じ取り、少しずつ緊張をゆるめていきます。
これは特別な支援が必要な子供だけに限りません。
たとえばHSC(Highly Sensitive Child=ひといちばい敏感な子)など、繊細で感受性の高い子供にとっても、日常は刺激が多すぎるのです。
「安心」がない環境では、挑戦も自己表現も難しくなってしまいます。
ですから、何かを“できるようになること”よりも先に、
「ここにいても大丈夫」と心から思える場所にたどり着くこと。
それが、生きづらさを乗り越えるための第一歩なのです。
回復は、静かに、しかし確かに始まります。
表情がやわらぎ、まなざしが戻り、自分の言葉で話し始める。
その変化の根っこには、必ずと言っていいほど、「安心」という土壌があります。
安心があるから、人は変われる
「安心できる場所がある」
それは、子供にとって存在の肯定であり、心の中に「自分はこのままでいていいんだ」という感覚を育みます。
大人の目には「止まっているように見える」時期も、実は子供たちはその内側でエネルギーを回復し、自分を取り戻す準備をしています。
焦らず、比べず、信じて待つ。
その姿勢こそが、子供たちの回復力を引き出していきます。
次回は、子供たちが「自分のままでいられる」ために欠かせない、否定されない関係性の大切さについて掘り下げていきます。
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