一昔前の日本の教育制度は、学年制と一斉授業を基本とし、子どもたちが「同じ場所で、同じ内容を、同じペースで学ぶ」ことを前提として構築されてきました。
学習指導要領に基づく画一的なカリキュラムのもと、出席を前提に学習や評価が行われる仕組みが長く主流とされてきたのです。
学校に通い続けることが当たり前とされ、その枠組みから外れること自体が、強い違和感や不安の対象になっていた時代です。
そのため、不登校という状態についても、個々の事情や背景が十分に考慮されることは多くなく、「なぜ通えないのか」という視点よりも、「なぜ通わないのか」という問いが前面に出やすい状況にありました。
その結果、子ども本人に加え、保護者を含む家庭全体が周囲から理解を得られず、孤立感を深めてしまうケースも見受けられました。
しかし、近年、社会構造や働き方、価値観が大きく変化する中で、「学ぶこと」と「学校に通うこと」を切り分けて考える視点が生まれ始めています。
子どもの心身の状態や特性に合わせて、学びの形そのものを見直す必要があるのではないか、という考えが少しずつ広がってきました。
こうした流れの中で注目されているのが、一条校でありながら柔軟な学びを認める「学びの多様化学校」(旧不登校特例校)です。
今回は、不登校を取り巻く価値観や環境がどのように変化してきたのか、解説していきますので、ぜひご一読ください。
変わりつつある不登校へのまなざし
かつて不登校は、「嫌なことを避ける行為」と受け取られてしまうことが少なくありませんでした。
その結果、不登校という選択をした子どもが「甘えているのではないか」と見られたり、保護者に対しても「子どもの学びの機会が十分に確保されていないのではないか」といった声が向けられることがありました。
そうした中で、不登校の子どもたちが周囲の理解を得にくく、居心地の悪さを感じてしまう場面も見受けられました。
しかし近年、通信技術の発達によって、国や世代を越えて多様な意見が交わされるようになりました。
その中で、従来の価値観を見直す動きが生まれ、不登校についても別の見方が少しずつ広がり始めています。
「本当の意味で、子どもにとっての支えとは何だろうか」。
そうした問いを重ねる中で、少しずつ見方が変わってきました。
課題は、学校に行かないことそのものにあるのではなく、生きていくうえで必要な力を安心して育めるかどうかにあるのではないか。
そして、不登校という状況を否定するのではなく、子ども一人ひとりが学びや成長を続けられるような、別の選択肢を整えていくことが大切なのではないか。
そんな考え方が広がり始めています。
そして国も、「誰一人取り残さない教育」という方針を掲げるようになっています。
学びの多様化学校とは
文部科学省が示す位置づけ
不登校に対する意識変遷の中で、不登校特例校という制度が生まれたのは2005年のことです。
この制度は、従来の学年制や一斉授業に強い困難を抱える子どもたちに対し、教育課程や指導方法を柔軟に編成できる仕組みとして位置づけられてきました。その後、不登校の背景や要因が多様化・複雑化している現状を受け、2023年には名称を「学びの多様化学校」へと変更し、制度の趣旨を引き継ぐこととなりました。文部科学省は、学校に通えない状態そのものを問題とするのではなく、子ども一人ひとりに合った学びの場を保障することが重要であるとし、学びの多様化学校を公教育の一つの選択肢として位置づけています。
学びの多様化学校の特徴
小学校から高校に通う年齢の子どもをそれぞれ対象とし、学校ごとに独自の方法を用いて、子どもたちの学力・社会性・自立性・感受性といった各種能力を伸ばすことを目指しています。
また、実際の授業計画を決める際は、以下5つの方法に則ります。
① 教科の新設
② 授業時数の組み替え
③ 指導内容の異学年への移行
④ 総授業時数の削減
⑤ 1単位時間当たりの授業時間の短縮などの特別の教育課程
また、生徒が授業に参加しやすくなるよう、学校によっては登下校の時間を調整し、授業開始を午前遅めや午後からに設定しているところもあります。

対象となる児童生徒
学びの多様化学校は、不登校の状態にある子どもや、これまでの学校環境に強い負担を感じてきた子どもに対して、新たな学びの選択肢を提供することを目的とした学校です。
そのため、入学にあたっては一定の条件や確認事項が設けられている場合があります。
対象となる児童生徒については、文部科学省の調査で示されている「年間30日以上の欠席」という不登校の定義が一つの目安とされますが、最終的な判断は在籍校やその管理機関が行います。
断続的な不登校や不登校傾向にある児童生徒も対象となり得る一方で、不登校状態にない児童生徒は特別の教育課程の対象とはならないとされています。
学びの多様化学校のメリット
柔軟な授業形態
多くの学びの多様化学校では、生徒の学年にとらわれず、その子どもが必要としている学びに取り組めるよう配慮されています。
年齢に応じた一律の指導要領ではなく、子ども一人ひとりの学習進度に合わせた授業が行われるため、学校の勉強についていけずに不登校になってしまった子どもや、不登校期間中に学習機会を逃してしまった子どもであっても、改めて学び直す機会を得ることができます。
少人数制による心理的負担の軽減
1クラスあたりの生徒数が少なく設定されている点も、大きな特長です。
多くの学校では1クラス20人未満、中には4~5人程度に抑えている学校もあります。
人数が多い環境では、周囲の存在が精神的な負担となったり、以前の学校でのつらい経験を思い出してしまうこともあります。
クラス人数を抑えることで、そうしたストレスにさらされるリスクを軽減する効果が期待できます。
こうした心理的な安心感があることで、子どもは学校を「行かなければならない場所」ではなく、「安心して過ごせる居場所の一つ」として受け止めやすくなります。
居場所は心を休ませ、気持ちを預けられる大切な拠り所であり、そうした場が複数あることは、子どもの心の安定にもつながります。
また、子どもが無理なく家の外へ出るきっかけになる点も、学びの多様化学校などの教育機関に通うメリットの一つと言えるでしょう。
将来の進路選択につながる制度的メリット
学びの多様化学校を修了することで、対応する小・中学校や高校の卒業資格、内申点が認められる点も、大きな安心材料です。
不登校による将来の進路に不安を感じている場合、制度的な裏付けを持つ学びの多様化学校を選択肢の一つとして検討することは、有効な方法と言えるでしょう。

課題として挙げられる点
学びの多様化学校の課題として挙げられるのが、学校数の不足と地域偏在です。
文部科学省は将来的に全国で300校の設置を目指していますが、2025年11月時点で認定されている学びの多様化学校は全国で59校にとどまっています。
最も多い東京都で13校、次いで福岡県で7校となっている一方、多くの都道府県では3~4校程度、県全体で1校のみの地域もあります。
また、22の県では未だ学びの多様化学校が設置されていないのが現状です。
設置者別では、公立学校が37校、私立学校が22校となっており、私立の場合は学費が必要となります。
愛知県における学びの多様化学校事情
2025年11月時点で、愛知県に存在する学びの多様化学校は1校のみですが、2026年中には新たに中高一貫校が1校開校予定です。
星槎名古屋中学校
学校法人星槎が運営する私立中学校で、2012年に愛知県初の不登校特例校として開校しました。
不登校支援に関する長年のノウハウを有し、設備の充実した環境で多様な体験が提供されています。
愛知県立日進高等学校付属中学校
2026年開校予定の公立中学校です。
チーム担任制を採用し、年間授業数の削減、定期テストの廃止、制服や行事の柔軟な運用など、子どもが安心して過ごせる環境づくりを重視しています。
学びの多様化学校とフリースクールの違い
フリースクールは、学習指導要領に基づかない柔軟な支援が特徴で、子ども一人ひとりの興味関心に寄り添った活動が可能です。
一方で無認可校として扱われるため、出席や成績の扱いについては在籍校との連携が必要となります。
フリースクールは元の学校に籍を残して通うことが多い
フリースクールは、学校外での学びや居場所を提供する民間施設であり、多くの場合、在籍校(元の学校)に学籍を残したまま通う形が取られています。
お子さんが安心して学べる環境を選ぶために
現代における不登校は、決して単なる「逃げ」ではありません。
それは、子どもが自分自身を守るために選んだ、大切な防衛反応のひとつです。
どうか不安や焦りだけで判断せず、無理に通学を続けさせる以外の選択肢にも目を向けてみてください。
学びの多様化学校、フリースクール、ホームスクールなど、子どもに学びの機会を届ける方法は広がっています。
お子さんにとって心身ともに安心でき、「学びたい気持ち」を育める環境を選ぶことが何より大切です。
もし迷いや不安があれば、ステラBASEにもお気軽にご相談ください。
私たちは、子どもと保護者の皆さまに寄り添いながら、少しでもお力になれればと考えています。
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