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お母さんが悩んでいる

親子間に見られるカサンドラ症候群の特徴と心を守る考え方

「どうして分かってもらえないのだろう」
「こんなに頑張っているのに、なぜ一人で抱え続けている気がするのか」発達特性のある子どもと向き合う日々の中で、気づけば自分の気持ちは後回しになり、何度説明しても思いが伝わらない、助けを求めても十分に理解されない。そんな強い孤独感を抱えている保護者の方も少なくありません。共感や感情的なやりとりが成立しにくい関係性の中で、理解されない苦しさだけが積み重なっていく状態が続いている。
もしかしたら、それは、カサンドラ症候群(カサンドラ状態)と呼ばれる状態かもしれません。

 

カサンドラ症候群は、発達に特性のある人を支える家族やパートナーが、「自分の気持ちを分かってもらえない」「感情が返ってこない」という関係性の中で、不安や抑うつ、自己否定感を強めていく心理的な状態を指します。本来、誰かを支える立場にある人こそ、理解され、支えられる必要があります。しかし現実には、「親だから」「家族だから」という理由で、その苦しさが見過ごされ、言葉にされないまま蓄積してしまうことも少なくありません。

 

本記事では、不登校という状況を取り巻く中で生じやすい親子関係におけるカサンドラ症候群に目を向けながら、子どもへの関わりだけでなく、保護者自身の心を守る視点について考えていきます。

 

 

 

 

カサンドラ症候群とは

カサンドラ症候群とは、発達特性などがある身近な人との関係の中で、自分の気持ちや困りごとが理解されず、共感も得られない状態が長期間続くことによって生じる、心理的なストレス反応を指す言葉です。医学的な診断名ではなく、DSM-5(米国精神医学会の診断基準)やICD-11(WHOの国際疾病分類)にも正式な疾患としては記載されていません。そのため、病名というよりも「関係性の中で起こる心理的な経験や状態」を表す概念として用いられています。

 

よく現れる症状

・気持ちを伝えても感情的な反応が返らず、やり取りを重ねるうちに、自分の気持ちがないものとして扱われているように思えてくる

 

・周囲に相談しても状況の重さが伝わらず、「自分が気にしすぎているのではないか」と孤立感を深めてしまう

 

・本来は関係性の問題であるにもかかわらず、分かり合えない原因をすべて自分に向けてしまい、責め続けてしまう

 

これまでカサンドラ症候群は、主に夫婦関係の文脈で語られることが多い言葉でした。しかし近年では、支援現場や教育の分野において、親子関係の中でも同様の状態が起こりうることが注目されるようになっています。

 

診断名ではないが、支援の現場で注目されている背景

医師が「カサンドラ症候群」と診断することはありません。実際には、その苦痛や不調が、うつ病、適応障害、不安障害などの診断名で扱われるケースが多いのが現状です。それにもかかわらず、なぜ支援の現場ではこの用語が使われ続けているのでしょうか。最大の理由は、身近な人との関係性の中で生じる共感のズレや孤立感、心理的疲労が蓄積していくプロセスを説明する枠組みとして有効である点にあります。

「カサンドラ症候群」という名称は、ギリシャ神話に登場するカサンドラに由来します。彼女は真実を語っても誰にも信じてもらえなかった人物であり、この神話になぞらえて、「自分の苦しさや感情を訴えても理解されない状態」を象徴的に表す言葉として使われてきました。専門家のコラムや支援者向けの解説においても、この用語は診断名ではなく、関係性の中で生じる心理的負担を説明する概念として位置づけられています。支援者やカウンセラーは、この言葉を通じて「感情的な孤立感」や「相互理解の欠如」が心身に与える影響を共有し、必要な支援や介入につなげる視点を重視しています。

 

カサンドラ症候群がなぜ起こるのか?

上西(ブログ用画像)

 

カサンドラ症候群の背景にあるのは、「共感の欠如」そのものではなく、共感が返ってこない状態が慢性的に続くことです。

 

人は本来、身近な相手との関係の中で

・気持ちを受け止めてもらう

・困りごとを共有する

・感情を言葉にして整理する

 

といったプロセスを通じて、心理的な安定を保っているといわれます。しかし、どれだけ伝えようとしても反応が得られなかったり、感情が受け取られなかったりする状態が続くと、「理解されない」「一人で抱えている」という感覚が強まっていきます。

 

ASD、ADHDなどの発達特性が関係するケース

とくに自閉スペクトラム症(ASD)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達特性が関係するケースでは、発達特性を持つ人との親密な関係性の中で、コミュニケーションのズレが生じやすくなります。その結果、慢性的なストレスや孤独感につながることが多く見られます。「説明しても伝わらない」「気持ちを表しても受け止めてもらえない」という体験が積み重なることで、心理的な疲労が蓄積し、心身の不調として表面化していくのです。

実際、カサンドラ症候群と関連して語られる体験には、不眠、食欲不振、抑うつ感、慢性的な不安などが見られることがあり、支援の現場ではこれらを早期に気づくべき重要なサインとして捉えています。

 

カサンドラ症候群になりやすい人とは

支援の現場では、次のような性格的特徴が指摘されることがあります。

 

諦めずに向き合おうとする人

責任感が強く、簡単に諦めない人ほど、カサンドラ状態が深刻化しやすい傾向があります。関係がうまくいかなくても、「もう少し頑張れば分かり合えるはず」「自分が工夫すれば変わるかもしれない」と努力を続ける中で、期待が何度も裏切られる経験が重なり、心の疲労が蓄積していくことがあります。

 

自分のことを後回しにしやすい

自己肯定感が低めの人は、「自分よりも相手を優先すべき」「これくらい我慢するのが普通」と考えやすく、自分の気持ちや体調、困りごとを後回しにしてしまう傾向があります。本当はつらさを感じていても、「自分が気にしすぎなのかもしれない」と受け止め、助けを求めることを控えてしまうことも少なくありません。その結果、自分の限界に気づかないまま無理を重ね、気づいたときには強い孤立感や無力感を抱えているケースも見られます。

 

人の世話を焼くことが当たり前だと思っている

もともと面倒見がよく、相手を優先することに慣れている人も、カサンドラ状態に陥りやすい傾向があります。「自分が支えなければ」「放っておけない」という思いから無理を重ね、気づけば自分の気持ちや疲れを後回しにしてしまうことがあります。

 

なお、ここで挙げてきた「なりやすい人の特徴」は他者の気持ちに敏感で、責任感が強く、状況を先回りして支えようとする人で、本来は支援やケアに向いている特性です。家庭内で親やきょうだいを気遣い、空気を読み、場を保ってきた経験は、家族を守るために発揮されてきた力でもあります。問題なのは、その力を長期間にわたり、一人で背負わされてきたことです。助けを求める余地がなく、「自分が頑張らなければ」という状態が続けば、どんな強さも消耗してしまいます。そのつらさは弱さの結果ではなく、支えを一人で担わざるを得なかった状況の中で生まれたものです。そう捉え直すことが、回復への大切な一歩になります。

 

親子間でも起こりやすい背景

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カサンドラ症候群的な状態は、夫婦関係に限らず、親子関係という非常に密接な関係性の中でも起こりやすいとされています。親子関係は、生活・感情・責任が長期間にわたって結びつく関係です。

 

子どもに発達特性がある場合

・感情を言語化することが難しい

・相手の気持ちを察することが苦手

・関心や価値観が大きく異なる

 

こういった特性が、日常のやり取りの中で顕在化することがあります。親は「分かってあげたい」「支えたい」と願う一方で、反応の乏しさや理解のズレに直面し、「何をしても届かない」という感覚を抱きやすくなります。さらに親子関係には、「親なのだから理解できて当然」「分かり合えないのは自分の努力不足ではないか」といった社会的・心理的なプレッシャーが存在します。そのため、親自身が苦しさを言葉にしにくく、孤立を深めてしまうケースも少なくありません。このように、親子間で起こるカサンドラ症候群は、誰かの性格や愛情の問題ではなく、関係性の構造やコミュニケーションの特性が重なった結果として生じるものです。だからこそ、親子双方を責めるのではなく、第三者の視点や支援を通じて関係性を見直すことが重要だとされています。

 

親子関係におけるカサンドラ症候群への向き合い方

特性への理解

発達に特性のある子どもを育てていると、日常の中で「気持ちが通じない」「何度説明しても伝わらない」と感じる場面が少なくありません。感情表現の仕方や言葉の受け取り方、他者の気持ちを想像する力などに特性がある場合、親がどれほど思いを込めて関わっても、期待した反応が返ってこないことがあります。このような状況が続くと、親は次第に「自分の気持ちは後回し」「理解されないのが当たり前」と感じるようになり、強い孤独感や無力感を抱えることがあります。ここで重要なのは、それが親の努力不足や愛情不足ではないという点です。発達特性による認知やコミュニケーションの違いが、関係性のズレとして表れている可能性があることを知ることが、親自身を守る第一歩になります。

 

親だけで抱え込まないことの大切さ

発達に特性のある子を育てる親は、「一番理解してあげられるのは自分しかいない」という責任感を強く抱きがちです。その結果、苦しさや違和感を外に出せず、誰にも相談できないまま心が消耗していくケースも少なくありません。しかし、親子関係の中で生じるカサンドラ的な状態は、一人で耐えることで解決するものではありません。障害者発達支援センターや支援機関、精神科やクリニックなどで対話を通じ、自分の気持ちを言葉にすること自体が大きな支えになります。「しんどいと感じていい」「理解されないつらさを感じてもいい」と認めてもらえる経験は、孤立感を和らげ、気持ちを立て直す力になります。

 

環境と関係性を整える

子どもとの関係において、「わかってもらおう」「変わってもらおう」と努力し続けることは、親にとって大きな負担になります。特性そのものは簡単に変えられるものではなく、そこに強い期待をかけすぎると、気づかないうちに心の疲れが積み重なってしまうことがあります。大切なのは、子どもを変えるのではなく、親の関わり方や環境を調整する視点です。感情的な共感を求めすぎない、言葉での理解にこだわらない、できている部分に目を向けるなど、関係性の持ち方を見直すことで、親の心の負担は軽くなることがあります。

 

「この子からは感情的な共感は返ってこないかもしれない」

「分かり合う形は、一般的な親子像と違ってもいい」

「通じない部分があっても、関係が壊れているわけではない」

 

そう捉え直すことは、諦めではなく、親自身を守るための大切な視点です。発達に特性のある子どもとの関係では、「分かり合う=共感し合う」という前提が成り立たない場面もあります。そのたびに期待を重ねてしまうと、親の心だけが疲れてしまうことがあります。共感が返ってこないことと、愛情がないことは同じではありません。安心してそばにいる、必要なときに頼ってくる。そうした行動の中に、その子なりの関係性が表れていることもあります。

 

感じ方の違いがあっても、親子の関係は続いていく

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発達に特性のある子どもとの親子関係では、「気持ちが通じにくい」「共感が返ってこない」と感じる場面が繰り返されることがあります。その中で生まれる苦しさや孤立感は、親の弱さや愛情の足りなさによるものではありません。関係性の特性の中で、誰にでも起こりうる自然な反応です。カサンドラ症候群という言葉は診断名ではありませんが、こうした見えにくいしんどさを言葉にし、支援につなげるための一つの手がかりになります。

 

親子関係において大切なのは、「完全に分かり合うこと」を目指し続けることではなく、「違いがあっても関係は続いていく」と捉え直す視点です。一般的な親子像と違っていても、その家庭なりの関係の形があっていいのです。親だけで抱え込まず、必要な支援や第三者の視点を取り入れながら、少しずつ心の負担を軽くしていくこと。それは決して諦めではなく、親自身を守り、親子関係を長く穏やかに続けていくための前向きな選択です。

 

 

 

 

 

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