「子どもを伸ばすには、とにかく褒めることが大事」
「叱るよりも、まずは褒めて育てよう」
こうした言葉は、育児や教育の現場で繰り返し語られています。確かに、褒められることは子どもにとって嬉しい体験であり、行動のきっかけになることも少なくありません。しかし一方で、現場ではこんな声もよく聞かれます。「ちゃんと褒めているのに、続かない」「褒めると一時的にはやるけれど、すぐにやらなくなる」「むしろ褒めると反発されることもある」本来は子どものやる気を引き出すはずの「褒める」という関わりが、なぜ思ったように機能しないことがあるのでしょうか。その背景には、「褒めること」そのものの良し悪しというよりも、人の行動がどのような仕組みで変化していくのか、という視点が関係しています。例えば、同じように褒めたつもりでも、子どもがやる気を出す場合もあれば、逆にやる気を失ったり、距離を取ろうとしたりすることもあります。この違いはどこから生まれるのでしょうか。こうした“行動の変化の仕組み”を体系的に整理した考え方のひとつが、応用行動分析学(ABA)です。
本記事では、この視点を手がかりにしながら、「褒める」という行為がどのように子どもの行動に影響しているのか、そして、うまくいく関わり方とそうでない関わり方の違いについて整理していきます。
なぜ「褒める育児」がうまくいかないことがあるのか
褒めても子どもが変わらない現象
「ちゃんと褒めているのに、なぜか続かない」
「その場ではやるけれど、次の日には元に戻ってしまう」
子どもに良い関わりをしようとしているからこそ、こうした違和感を持つ方は少なくありません。
褒めた直後は変化が見られても、それが定着しない。このような現象は、「褒めること」だけでは行動が安定しない可能性を示しています。
「褒めれば伸びる」がうまくいかない理由
褒めること自体は大切な関わりですが、それだけで行動が継続するとは限りません。例えば、「すごいね」「えらいね」という言葉が、あるときは嬉しいものとして働いても、別の場面では「期待されている」と感じられることがあります。また、「褒められるからやる」という状態になると、褒められない場面では行動が起きにくくなることもあります。つまり、“褒める”という同じ関わりでも、状況や受け取り方によって結果が変わるということです。
行動の仕組みから考える応用行動分析学の視点
では、この違いはどこから生まれるのでしょうか。その手がかりになるのが、「行動はどのように変化するのか」という視点です。私たちはつい気持ちや性格に注目しがちですが、行動は前後の関わりや環境とのつながりの中で変化しています。こうした行動の仕組みを、環境との関係性から整理していく考え方が「応用行動分析学(ABA)」です。本記事ではこの視点をもとに、「褒める」という関わりが行動にどのような影響を与えているのかを整理し、子どもの主体性を育てる関わり方について考えていきます。
応用行動分析学とは何か
行動は「性格」ではなく「環境」で変わる
私たちは子どもの行動を見るとき、「やる気がある」「性格的に続かない」といった内面に注目しがちです。しかし実際には、同じ子どもでも状況によって行動が大きく変わることがあります。ある場面では自分から取り組めるのに、別の場面ではまったく動かないということも珍しくありません。応用行動分析学では、この違いを「性格」ではなく「環境との関わり」で捉えます。つまり、行動はその人の中だけで決まるものではなく、前後の状況や関わり方によって変化していくものだと考えます。
行動を分解して見る「ABC分析」
その考え方を整理したものが、ABC分析と呼ばれる枠組みです。
・A(先行条件):行動のきっかけ
・B(行動):実際に起きた行動
・C(結果):行動のあとに起きたこと
例えば、
おもちゃが散らかっている(A)
子どもが片付ける(B)
「助かったよ」と声をかけられる(C)
という流れがあったとします。
このとき、その後も片付ける行動が増えていれば、「Cの関わりが行動を後押しした」と考えます。大切なのは、「どんな声かけをしたか」だけでなく、「その結果、行動がどう変わったか」に注目することです。
「褒める」はどこに作用しているのか
この視点で見ると、「褒める」という関わりはC(結果)の部分にあたります。つまり、褒めること自体が良いか悪いかではなく、その後に行動がどう変化したかが重要になります。同じ「すごいね」という言葉でも、行動が増えることもあれば、変わらないこと、あるいは減ってしまうこともあります。それは、言葉そのものではなく、その言葉が子どもにとってどのような意味を持ったかによって結果が変わるためです。
褒めることが逆効果になるとき
なぜ子どもは反発するのか
子どもが褒められたあとにやらなくなる場合、それは単なる気まぐれではないことがあります。人は、「やらされている」と感じたときに、それに抵抗しようとする性質があ流と言われています。これは心理学では「カウンターコントロール」と呼ばれることもあります。例えば、
・「やりなさい」と言われるとやりたくなくなる
・期待されるほどやる気が下がる
といった反応です。これはわがままではなく、「自分で決めたい」という自然な働きです。
行動が増えないときは「強化」になっていない
応用行動分析学では、ある関わりが有効だったかどうかは、「その後に行動が増えたかどうか」で判断します。これは、オペラント条件づけの考え方に基づいています。行動の直後に起きた結果によって、その行動の頻度が変化するという原理です。もし褒めたにもかかわらず行動が続かないのであれば、その関わりは子どもにとって「またやろう」と思える結果になっていなかった可能性があります。
子どもにとっての「褒め」の意味はひとつではない
大人にとってはポジティブな言葉でも、子どもにとっては別の意味として受け取られることがあります。この点については、キャロル・ドゥエックの研究が参考になります。ドゥエックの研究では、「能力を褒める(すごいね)」よりも、「努力やプロセスを認める」ほうが、その後の挑戦意欲が高まりやすいことが示されています。能力を評価されると、「失敗=自分の価値が下がる」と感じやすくなり、結果として挑戦を避ける行動につながることがあるためです。
「褒められるための行動」になるリスク
さらに、報酬や評価に依存した行動については、エドワード・デシとリチャード・ライアンによる自己決定理論でも指摘されています。この理論では、人は「自分で選んでいる」という感覚(自律性)があるときに、内発的な動機づけが高まるとされています。一方で、外からの評価や報酬が強くなると、「やらされている」という感覚が生まれやすくなり、もともとあったやる気が下がることがあります(アンダーマイニング効果)。
子どもの主体性を育てる関わり方
評価ではなく「共有」を意識する
こうした研究を踏まえると、重要なのは「評価すること」よりも「行動の意味を共有すること」です。例えば、「えらいね」ではなく「片付けてくれて助かったよ」このように伝えることで、子どもは「評価されている」のではなく、「自分の行動が役に立った」と実感しやすくなります。
行動と結果をつなげて伝える
行動と結果のつながりを伝えることは、ABAの基本でもあります。
「片付けた」→「部屋が使いやすくなった」
「手伝った」→「早く終わって助かった」
このように具体的な結果が見えることで、子どもは自分の行動の意味を理解し、自発的に繰り返しやすくなります。
無理に褒めようとしない
すべての行動に対して必ず褒める必要はありません。
むしろ、行動が安定してきた段階では、毎回強く反応しない「間欠的な関わり」のほうが、行動が長く維持されやすいことが知られています。
これは行動分析の中でも広く知られている「間欠強化」の考え方に基づいています。
親が難しさを感じるのは自然なこと
ここまで読んで、「じゃあ褒めない方がいいのか」と感じた方もいるかもしれません。しかし実際には、日々の生活の中で感情を抑えながら関わり続けることは簡単ではありません。つい期待してしまうこともあれば、うまくいかずに悩むこともあります。それは、子どもを大切に思っているからこそ生まれるものです。大切なのは、「完璧な関わり」を目指すことではなく、少しずつ見方を変えていくことです。
子どもとの関わり方でよくある悩み
褒めないと自己肯定感は下がる?
必ずしもそうとは限りません。
自己肯定感は、「褒められること」だけで育つものではなく、自分の行動が意味を持ち、周囲に影響を与えていると実感できる経験の積み重ねによって育っていきます。
例えば、「すごいね」と評価されることよりも、
「手伝ってくれて助かったよ」と、自分の行動が誰かの役に立ったと感じられるほうが、より実感のある経験になります。
大切なのは、評価の言葉を増やすことではなく、行動と結果のつながりを本人が感じられる関わりです。
叱るのはダメ?
叱ること自体がすべて悪いわけではありません。
ただし、叱る関わりは「行動を止める」ことには効果がありますが、「どうすればよいか」という新しい行動を教えることにはつながりにくいとされています。
また、強い叱責が続くと、
・その場から離れようとする
・隠れて行動する
・関わり自体を避ける
といった反応につながることもあります。
そのため、「やってはいけないこと」を伝えるだけでなく、
「どうすればよかったのか」を具体的に示すことが重要です。
どのタイミングで声かけすればいい?
基本的には、行動の直後が最も効果的とされています。行動と結果のつながりがわかりやすいほど、子どもは「この行動でよかったんだ」と理解しやすくなります。例えば、
・片付けた直後に「助かったよ」と伝える
・手伝った直後に「早く終わったね」と共有する
といった形です。ただし、毎回必ず声かけをする必要はありません。行動が安定してきた場合は、あえて頻度を減らしたり、少し時間を空けて伝えたりすることで、行動がより自然に定着していくこともあります。
大切なのは、「褒めること」そのものではなく、行動とその結果をどう結びつけて伝えるかです。
子どものためにできること
「褒めること」は有効な関わりのひとつですが、それ自体が目的になると、かえって行動が不安定になることがあります。重要なのは、「その関わりが子どもにどう受け取られ、その結果どう行動が変わったか」を見ていくことです。行動は、環境とのやりとりの中で形づくられていきます。評価することよりも、行動と結果を一緒に確認しながら関わっていくことが、子どもの主体性を育てる土台になります。
さらに、子どもが安心して行動を選べる状態をつくることも大切です。失敗しても否定されない環境の中でこそ、自分で考え、試してみようとする力が育っていきます。
ステラBASEでは、子どもを「評価する対象」としてではなく、「自分で選び、行動する主体」として捉えることを大切にしています。「褒める・叱る」といった関わり方に頼るのではなく、子どもが思わず動きたくなるような環境づくりや、行動と結果を一緒に見ていく関わりを重視しています。その中で子どもたちは、「やらされる」のではなく、「自分でやってみる」という感覚を少しずつ取り戻していきます。大人の期待に応えるためではなく、自分の意思で行動する経験の積み重ねが、安心して挑戦できる土台になっていきます。もし、「どう関わればいいのか分からない」「褒めても叱ってもうまくいかない」と感じている方がいれば、こうした視点もひとつのヒントになるかもしれません。子どもが本来持っている力を引き出すために、関わり方だけでなく「環境」という視点から見直してみることも、ひとつの選択肢です。
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