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インクルーシブ教育のメリット、デメリットと学校での実践例を解説

近年、発達特性の多様さが広く知られるようになり、不登校や学びづらさを抱える子どもも増えています。こうした状況の中で、従来の「同じ年齢・同じ進度・同じ方法」で学ぶ学校の枠組みだけでは、すべての子どもに十分に応えきれない場面が目立つようになってきました。「集団に合わせること」が前提となる環境では、努力しているにもかかわらずつまずいてしまう子どもや、無理を重ねてしまう子どもが生まれてしまうこともあります。

 

こうした課題を受けて近年注目されているのが、「特別な支援が必要な子ども」とそうでない子どもを分けて考えるのではなく、一人ひとりの違いを前提に、すべての子どもが学びやすい環境を整えていこうという視点です。支援の対象を限定するのではなく、教育のあり方そのものを見直そうとする動きが広がっています。それが、インクルーシブ教育という考え方です。

 

今回は、インクルーシブ教育とはどのような考え方なのか、そしてメリットだけでなく課題も含めて、分かりやすく整理していきます。

 

 

 

インクルーシブ教育とは?

文部科学省による定義と基本理念

インクルーシブ教育とは、障害のある子どもと障害のない子どもが可能な限り共に学ぶことを目指し、一人ひとりの教育的ニーズに応じた適切な指導や支援を行う教育の考え方です。文部科学省では「インクルーシブ教育システム」の構築を掲げ、共生社会の形成に向けた教育の在り方として位置づけています。

「インクルーシブ(inclusive)」には、包み込む・排除しないという意味があります。障害の有無、発達特性、家庭環境、文化的背景などにかかわらず、誰もが尊重されながら学べる環境を整えることを大切にしています。そのため、単に「同じ場で学ぶこと」だけを目的とするのではなく、一人ひとりの違いを前提に、必要な配慮や支援を行いながら、共に学び合える環境をつくることを重視します。

 

特別支援教育との違い

基本的な考え方

特別支援教育は、障害のある子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じて、専門的な指導や支援を行うことを目的とした教育です。必要に応じて、特別支援学級や特別支援学校など、学びの「場」を分けることも含めて支援を行います。一方、インクルーシブ教育は、子どもを学びの場に適応させるのではなく、学びの場そのものを子どもに合わせていくという考え方に立っています。障害の有無にかかわらず、違いがあることを前提として、同じ場で学び、参加できる環境を整えることを重視します。つまり、特別支援教育が「個別のニーズに応じた支援」に焦点を当てているのに対し、インクルーシブ教育は「誰もが参加できる学習環境づくり」を重視している点に、考え方の違いがあります。

 

目指している教育の方向性

特別支援教育が目指すのは、子ども一人ひとりの困難さに応じた適切な支援を行い、その子が持つ力を最大限に伸ばすことです。専門性の高い指導や個別の配慮によって、学習や生活上の課題を軽減することが重視されます。一方、インクルーシブ教育が目指しているのは、一部の子どもへの支援にとどまらず、すべての子どもが安心して学べる教育のあり方そのものを変えていくことです。多様な子どもが共に学ぶ中で、互いの違いを理解し、支え合う経験を積むことが、将来の共生社会につながると考えられています。このように、特別支援教育は「個々の成長を支える教育」を、インクルーシブ教育は「共に学ぶ社会をつくる教育」を目指している点に、方向性の違いがあります。

 

なぜ今「インクルーシブ教育」が注目されているのか

インクルーシブ教育が注目されている背景には、教育や社会を取り巻く環境の変化があります。特に国際的な潮流がこの考え方を広く共有する力となりました。

その大きな転機の一つが、1994年にユネスコとスペイン政府が共催した「特別ニーズ教育に関する世界会議」で採択された「サラマンカ声明」です。この声明は、「可能な限りすべての子どもが同じ学校で学ぶべきである」というインクルーシブ教育の原則を国際社会で初めて明確に示し、多様な学習者を認識し支援する教育への転換を促しました。

そして、もう一つの重要な節目が2015年のSDGs(持続可能な開発目標)の採択です。この国連の目標においては、「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を提供する」という教育目標(SDG4)が掲げられ、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という理念が教育にも適用されました。SDGsは教育の公平性と包摂性を国際的な共通課題として位置づけ、インクルーシブ教育の重要性を改めて強調しています。

こうした国際的な流れの中で、教育現場でも多様な子どもたちのニーズに応じた学びのあり方が重要視されるようになりました。インクルーシブ教育は単なる理想論ではなく、すべての子どもが共に学び続けられる教育システムを構築するための現実的なアプローチとして、今の教育課題に対応する視点として注目されています。

 

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インクルーシブ教育のメリット

インクルーシブ教育は、障害の有無や発達特性、家庭環境などにかかわらず、すべての子どもが同じ場で学び合うことを大切にする教育の考え方です。この取り組みは、特定の子どもだけでなく、学ぶ側・育てる側・社会全体に多くのメリットをもたらします。

 

学習面におけるメリット

インクルーシブ教育の環境では、子ども一人ひとりの理解のスピードや得意・不得意に配慮した学びが重視されます。そのため、

・分からないことを「分からない」と言いやすくなる

・自分に合った学び方を見つけやすくなる

・他者の考え方や学び方に触れることで理解が深まる

といった効果が期待できます。また、子どもたちは「みんな同じでなくていい」という前提のもとで学ぶため、競争や比較によるプレッシャーが軽減され、安心して学習に向き合えるようになります。

 

人間関係、社会性へ与える影響

インクルーシブ教育では、多様な背景や特性を持つ子ども同士が日常的に関わります。その中で、

・相手の立場や気持ちを想像する力

・違いを受け入れ、尊重する姿勢

・助け合い、協力する経験

が自然と育まれていきます。

こうした経験は、将来社会に出たときに必要となるコミュニケーション力や共生意識の土台となります。「違いがあることは特別なことではない」という感覚を、子どものうちから身につけられる点は大きなメリットです。

 

保護者にとっての安心感

保護者にとっても、インクルーシブ教育は安心感につながります。

・子どもが「自分らしい」環境で過ごせる

・特性や困りごとを前提として理解してもらえる

・「周囲に迷惑をかけていないか」という不安が和らぐ

といった点は、日々の子育てにおける心理的な負担を軽減します。また、他の家庭との関わりを通して、子育ての悩みを共有したり、新たな視点を得たりできることも、保護者にとって大きな支えとなります。

 

社会全体にもたらす変化

インクルーシブ教育で育った子どもたちは、多様性を当たり前のものとして受け止める力を身につけていきます。それは将来、

・多様な人と協働できる社会人

・遠ざけるのではなく、関わり方や環境を工夫しながら共に歩める大人

・誰もが生きやすい社会をつくる担い手

へとつながっていきます。インクルーシブ教育は、特定の子どもを支援するためだけの取り組みではなく、社会全体の成熟度を高める教育とも言えるでしょう。

 

インクルーシブ教育のデメリット

個別の支援が行き届きにくい場合がある

多様な子どもが同じ教室で学べることは、互いの違いを認め合いながら育つ貴重な機会になります。一緒に学ぶ環境がある反面、教員が一人ひとりに十分な時間をかけることが難しくなる場合もあります。特に、強い困難さや専門的な支援を必要とする子どもにとっては、困りごとが周囲に伝わりにくかったり、必要な配慮が後回しになってしまったりする可能性があります。インクルーシブ教育は「同じ場にいること」自体がゴールではありません。共に学ぶことの価値を大切にする反面、個別の支援が確実に届く体制づくりが欠かせないという点が重要です。

 

周囲の子どもへの配慮が難しい場面もある

支援が必要な子どもへの対応が十分でない場合、学級全体の学習の進行や雰囲気に影響が出ることもあります。
その結果、周囲の子どもが戸惑いやストレスを感じてしまうケースも考えられます。インクルーシブ教育では、「誰かのための配慮が、別の誰かの負担にならないようにする」視点が欠かせません。

 

インクルーシブ教育の課題

日本では文部科学省がインクルーシブ教育を進めるためのモデル事業を実施していますが、すべての地域で同じような支援体制が整っているわけではありません。特別支援学級や通級指導といった選択肢は存在するものの、理念と実際の支援提供の間には地域差や環境差があるという課題も指摘されています。

 

インクルーシブ教育の取り組み実践例

 

① 広島県福山市「常石ともに学園」

広島県福山市にある「常石ともに学園」は、公立校として異なる年齢での共同活動を中心にした教育を行っています。対話・遊び・仕事・催しの4つの活動を通じて、子ども一人ひとりの特性やペースを尊重しながら 多様な子どもが、ともに学ぶ環境を実践しています。これは インクルーシブ教育の発想を具体化した教育モデル と考えられます。

 

②東京都調布市立「調和小学校」

東京都調布市立調和小学校は、市内の通級指導学級の拠点校として、インクルーシブ教育を実践している学校です。通級指導学級担任による巡回指導を行いながら、障害のある児童も通常学級で学ぶことを前提とした教育環境づくりに取り組んでいます。校内では、心理・医療・福祉分野の専門家を招いた研究を行い、全教職員が障害理解を深めながら、ユニバーサルデザインを意識した授業づくりを進めています。通常学級には、発達障害のある児童だけでなく、肢体不自由や知的障害に該当する児童も在籍しています。

 

③東京都世田谷区「HILLOCK(ヒロック)初等部」

2022年に開校したオルタナティブスクールで、「子どもが学びの“主体者”」となる教育を目指しています。特性・興味・得意を尊重し、個別の学び方を認め合う文化が根付いていて、子どもたち自身が自ら学ぶ力を育てることに取り組んでいます。

※オルタナティブスクールはについては、こちらをご覧ください。「オルタナティブ教育って何?」

 

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身近に実践の場がないと感じたときの、ひとつの選択肢

インクルーシブ教育の重要性が広く共有される一方で、
「理念には共感するけれど、実際に通える範囲に実践している学校がない」
「今の環境では、わが子に合った支援が十分に受けられない」
と感じる保護者の方も少なくありません。

制度や学校体制は地域による差が大きく、
インクルーシブ教育を望んでいても、選択肢が限られてしまう現実があるのも事実です。

 

フリースクールという、もう一つの学びの選択肢

そうしたときに知っておいてほしいのが、フリースクールという学びの場です。フリースクールは、学校に代わる「特別な場所」ではなく、子ども一人ひとりの特性やペースを尊重しながら学びを支える柔軟な教育環境です。

 

・年齢や学年にとらわれない学び方

・一人ひとりに合わせた関わり方や支援

・「できる・できない」よりも「どう学ぶか」を大切にする姿勢

 

こうした点は、インクルーシブ教育が目指している
「違いを前提に、学びの環境を子どもに合わせていく」という考え方と重なります。

 

「学校か、フリースクールか」にとらわれない視点

フリースクールは、すべての子どもにとって唯一の正解というわけではありません。学校教育と対立するものではなく、それぞれの子どもに合った学び方を考えるためのひとつの選択肢です。ただ、

・今の環境が合わないと感じている

・もっと安心して学べる場を探したい

・子どもの「その子らしさ」を大切にしたい

そう感じたときに、考えてもよい選択肢のひとつです。インクルーシブ教育の本質は、「どこで学ぶか」ではなく、その子が尊重され、学びに参加できているかどうかにあります。環境を変えることも、工夫を重ねることも、立派な支援のかたちです。正解はひとつではなく、その子と家庭に合った選択があっていい。そんな視点で、学びの場を考えてみることが大切なのかもしれません。

 

ステラBASEでは、子ども一人ひとりの特性やペースを大切にしながら、安心できる環境づくりを大切にしています。

 

 

 

 

 

 

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