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ハヴィガーストの発達課題から見る青年期の特徴と現代の考え方

人は生きていく中で、それぞれの年齢に応じた役割や期待を周囲から向けられます。「この年齢なら、これくらいはできていてほしい」といった目安のようなものです。このような期待に沿って行動できることは、自己肯定感や人生の満足度にも大きく関わります。しかし、病気や入院、精神的な不調、不登校、社会的孤立などが重なると、その年齢に応じた課題に取り組むことが難しくなり、自分を責めたり、焦ったり、落ち込んだりすることも少なくありません。

 

こうした「年齢ごとの発達と課題の関係」を理解するうえで参考になるのが、アメリカの教育学者ロバート・J・ハヴィガーストが提唱した発達課題理論です。本記事では、特に青年期に注目し、「青年期にはどのような課題があるのか」「現代社会や看護・支援の現場でどのように活かせるのか」について詳しく解説していきます。

 

ハヴィガーストの発達課題とは

ハヴィガーストの発達課題とは、人が健やかで幸福な人生を送るために、各発達段階で達成しておくことが望ましい課題を示した理論です。彼は、人生を乳幼児期から老年期までの6つの段階に分け、それぞれの段階で発達課題を設定しました。

 

発達課題を決める3つの要素

これらの課題は、「身体的成熟」「社会や文化からの期待」「個人自身の欲求」という3つの要素が相互に影響し合うことで決まると考えられています。ハヴィガーストは、発達課題が十分に達成されない場合、次の発達段階への適応が難しくなり、心理的・社会的な困難が生じやすくなると述べました。たとえば、幼児期に基本的な生活習慣が身についていない場合、児童期での学習や友人関係の形成に影響する可能性があります。また、青年期の課題が未達である場合、将来の職業選択や社会的自立、家族形成に課題を抱えることもあります。

 

現場での活用の意義

発達課題理論は、心理学や教育学のみならず、看護や福祉、支援現場でも重要な指針となります。対象者の年齢や生活背景、心理的状態を理解する手がかりとして活用でき、単なる評価軸ではなく、支援や教育の方針を考えるうえで大きな意味を持ちます。

 

年齢ごとの各発達段階とその課題

幼児期に身につけたい生活と社会の基本

幼児期は、歩く・話す・排泄などの基本的な生活スキルを習得する時期です。この時期に身につける生活習慣は、単に日常生活をこなすだけでなく、自分の身体や欲求を理解し、調整する力にもつながります。

さらに、家族との関わりを通して、善悪やルールを理解することも重要です。親や保育者の言葉や行動を模倣しながら、他者との関係性を学び、社会に適応する力の基礎を築きます。遊びや日常のやり取りを通じて、協調性や感情のコントロールも養われるため、幼児期の経験はその後の児童期や青年期の学習や人間関係に大きく影響します。

 

児童期に広げる友だちと学びの力

児童期は、幼児期に身につけた生活の基礎を土台として、学習や友だちとの関わりを通して社会性を広げる段階です。学校生活や遊びの中で、協力や競争、ルールを守ることの意味を学びます。また、身体能力や学習能力も向上し、自分と他者の区別や道徳感覚を養います。

この時期の経験は、自己肯定感の形成にも直結します。たとえば、宿題をやり遂げたり、運動会で役割を果たしたりすることで、「努力すれば達成できる」という自信を持つことができます。また、友だちとの関係を通じて、感情の共有や対立の解決、他者への共感力を学ぶことも児童期の重要な学びです。

 

青年期に探す自分らしさと人生の方向性

青年期は、身体的・心理的に大きな変化を経験する時期であり、自己のアイデンティティや人生の方向性を見つけることが大きな課題です。友人関係の広がり、進路や職業の選択、価値観や倫理観の形成など、多くの課題が重なります。この時期には、「自分は何者か」「どのような生き方をしたいのか」といった問いに向き合いながら、社会の一員として自立する準備を進めます。学校やアルバイト、部活動、趣味などの活動を通して、自己理解や興味・能力の確認を行うことが大切です。青年期の経験は、将来の職業選択や人間関係、人生の方向性に深く影響します。

 

壮年期に築く家庭と社会での自立

壮年期は、家庭や仕事で自立し、社会の一員として役割を果たす時期です。パートナーや子どもとの生活を通して、安定した生活基盤を作ることが求められます。また、仕事における責任や社会的地位の確立も、この時期の重要な課題です。

家庭や職場での経験は、対人関係能力や問題解決能力をさらに高める機会となります。結婚や子育て、仕事での責任ある役割を通じて、自己の成長と他者との関係性を統合する力が身につきます。

 

中年期に果たす責任と次世代への関わり

中年期は、家庭や仕事で中心的な役割を担い、次世代を支える時期です。経済的・社会的安定を保ちながら、親世代や家庭環境の変化に対応していくことが求められます。また、子どもの成長や教育、地域社会での役割など、他者に対する責任も大きくなります。この時期には、長期的な視点での意思決定能力や調整力が重要です。仕事や家庭、地域社会での経験を通して、リーダーシップや協調性を発揮することが多く、社会全体への貢献や次世代への影響力を育む段階でもあります。

 

老年期に振り返る人生と社会との関わり

老年期は、身体的機能の変化や社会的役割の変化を受け入れ、人生を振り返る時期です。これまでの経験や知識を活かして、次世代への関わりや地域活動を通じて人生の総仕上げを行います。健康や社会的つながりを維持し、趣味や学習、ボランティア活動などを通じて充実した生活を送ることも重要です。老年期の経験は、自己の人生を整理し意味づけるプロセスとして、精神的な充足感や社会的貢献感につながります。また、この時期の活動は、家族や地域社会へのポジティブな影響を与えるだけでなく、自らの生きがいの形成にもつながります。

 

青年期とはどのような時期か

 

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ハヴィガーストの理論における青年期は、おおよそ13〜17歳頃を指し、子どもから大人へと移行する過渡期です。この時期は、身体的成熟が進むだけでなく、心理的・社会的にも大きな変化を経験します。

青年期は「自分は何者なのか」「将来どう生きていくのか」といった問いに向き合いながら、社会の一員として自立していく準備を進める段階といえます。

 

青年期における10項目の発達課題

ハヴィガーストは、青年期に以下の課題を達成することが重要であるとしました。

 

・同年齢の男女との成熟した人間関係を築く

友情や恋愛関係を通して、他者との信頼関係やコミュニケーション能力を学ぶ段階です

 

・男性または女性としての社会的役割を学ぶ

社会や文化の中で期待される性別役割を理解することですが、現代では固定的な性別役割に縛られず、多様な生き方を模索することも含まれます。

 

・自分の身体構造を理解し、身体を有効に使う

思春期の身体変化を受け入れ、健康管理や運動能力の向上につなげることが求められます。

 

・両親や他の大人から情緒的に独立する

親や家庭からの心理的・情緒的自立を試みる時期です。情緒的な独立とは、親を拒絶したり関係を断つことではなく、支えを受けながらも「自分の感情や選択に責任を持とうとする姿勢」が育っていく過程を指します。

 

・経済的な独立に対する自信をもつ

アルバイトなど通じて、自分が社会で役割を果たせるという感覚を育てる。

 

・職業を選択し、その準備をする

自分の興味・能力・価値観に合った職業を考え、進学や職業訓練などで準備します。

 

・結婚と家庭生活の準備をする

当時は結婚生活への準備が青年期課題の一部でしたが、現代ではパートナーシップや対人関係の形成能力として捉える方が自然です。

 

・市民として必要な知識や態度を身につける

社会や地域で責任ある行動ができるよう、政治や経済、法律などの基本知識を学びます。

 

・社会的責任のある行動をとる

自分の行動が他者や社会に影響することを理解し、ルールやマナーを守ることが求められます。

 

・行動の指針となる価値観や倫理観を形成する

「自分がどう生きたいか」「何を大切にするか」といった価値観を確立します。現代では、多様な価値観や文化を尊重しながら、自分なりの判断基準を持つことが求められます。

これらの課題は、当時のアメリカ社会の価値観を反映しており、現代ではそのまま当てはめにくい点もあります。しかし、「自立」「人間関係」「価値形成」という大枠の視点は、現在でも青年期を理解するうえで有効です。

 

現代の青年期と発達課題のズレ

現代社会では、進学・就労・結婚といった人生の選択肢が大きく広がり、「いつ」「どのような形で」大人になるのかは人によって大きく異なります。そのため、青年期の発達課題が想定通りの時期に達成されないことも、決して珍しいことではありません。

とくに、不登校やひきこもり、精神疾患、慢性疾患などを抱える若者の場合、対人関係や社会参加の機会そのものが制限されることがあります。その結果、「周囲より遅れている」「自分は大人になれていない」と感じ、自信を失ってしまうことも少なくありません。

しかし、発達課題は本来、年齢によって一律に達成されるべき「チェックリスト」ではありません。今どの課題に向き合っているのか、どの部分でつまずいているのかを丁寧に捉える視点が重要になります。

 

現代社会での多様化への対応

ハヴィガーストが提唱した青年期の発達課題は、当時のアメリカ社会における比較的画一的なライフコースを前提としていました。しかし現代では、その前提自体が大きく変化しています。

 

進路ひとつをとっても、大学進学だけでなく、職業訓練、フリーランス、海外留学など多様な選択肢があります。結婚やパートナーシップの形も人それぞれで、青年期に家庭生活の準備を行うとは限りません。さらに、ジェンダーや性自認に関する価値観も多様化し、従来の性別役割に当てはまらない生き方を選ぶ若者も増えています。

 

こうした背景を踏まえると、青年期の発達課題は「達成できたかどうか」で評価するものではなく、「どの課題に取り組んでいるか」「どのような支援があれば前に進めるか」という視点で捉える必要があります。

たとえば、対面での人間関係が難しい場合には、オンラインでの交流や小規模な地域活動が社会参加の第一歩になることもあります。将来への不安が強い青年には、答えを急がせるのではなく、気持ちや考えを整理する時間と情報提供を行うことが支えになります。

また、現代の青年期では、心理的な健康そのものが重要な課題となっています。SNSによる比較、学業や就職へのプレッシャー、将来への不確実性などが重なり、心の余裕を失いやすい状況にあります。だからこそ、安心して立ち止まり、試行錯誤できる環境を整えることが欠かせません。

 

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看護、支援の現場で青年期の発達課題をどう活かすか

看護や支援の現場では、青年期の患者や利用者に対して、身体的ケアだけでなく、心理的・社会的側面への配慮が求められます。

たとえば、

  • 同年代との交流が断たれている場合は、孤立感への配慮
  • 進路や将来への不安が強い場合は、話を整理する機会の提供
  • 自立への焦りがある場合は、「今は準備の時期である」と伝える関わり

など、発達課題の視点を持つことで、その人の行動や感情を理解しやすくなります。

青年期の課題を「できていないもの」として評価するのではなく、「今、どこでつまずいているのか」を一緒に考える姿勢が、支援につながります。

 

現代青年期と発達課題のまとめ

ハヴィガーストの発達課題における青年期は、人生の方向性を形づくる重要な時期です。多くの課題が同時に求められる一方で、現代社会ではその達成の形が多様化しています。

青年期を特化して理解することは、理論を学ぶこと自体が目的ではなく、今まさに悩みの中にいる若者を理解し、支援につなげるための視点を持つことにつながります。

発達課題を「評価の物差し」ではなく、「理解の手がかり」として活用することが、青年期の支援において大切だといえるでしょう。

 

 

 

 

 

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